稽古場:ゆやんたん文庫 奈良市敷島町
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姜信子著「平成山椒太夫」出版記念会

一昨年、新潟日報に連載された姜信子氏の「平成山椒太夫」(挿絵:屋敷妙子)が、昨年末に本になった。この著作、それ自体が妙なものであるが、この現代的語りがもっと妙なのは、次々と人を巻き込んでいく習性があるようなのである。注意が必要である。

新潟日報の森澤氏、舞踊家堀川氏、NSTの山田氏、が実行委員となり、「妖しい春の大宴会」というサブタイトル。森澤氏と雑談をしたときに、冗談で寿々木米若の「佐渡情話」を口ずさんだのが失敗で、会場が「大佐渡たむら」(沼垂)ということもあって、「佐渡情話」をやるはめになってしまった。

さて、そもそも、浪曲は三味線が特殊なので、仮にコピーできたとしても、弾き語りは至難の業。1967年(昭和42年)収録の寿々木米若「佐渡情話」をあらためて聴いてみて、やはり愕然。「こりゃ、無理だなあ」と思いつつも、だいたいの流れが聞こえてきたので、採譜を試みる。

「むう、おかしい、変だ」いったい、浪曲というものは「三下がり」と相場は決まっているのだが、音が合わない。「これは、ひょっとして」と思い、「水調子」(低い音の調弦)の「本調子」にしてみたら音が採れる。ということは、これは佐渡の「文弥節」と同じ調弦を使っているということなので、今度は驚愕。米若は、佐渡の文弥節を分かっていて、「佐渡情話」に取り入れたのだろうか・・・

結局、浪曲の弾き語りは諦めて、ちょっと浪曲ぽい手を借りて、得意の「二上がり」調弦で「祭文浪曲佐渡情話」を仕立てることにした・・・ややこしい話しで恐縮。

以前「文弥節」採譜の時にも解説したことがあるが、一の糸を低音にして(これを水調子という)本調子の調弦をしたうえで、二の糸と三の糸しか弾かず、しかも三の糸の高音部を主に弾く奏法は、実は「二上がり」調弦で弾く事と変わりがない。

どうして、そういう調弦になったかは不明であるが、せっかく「三味線」なのに、二本の糸しか使わないのは、音の展開や指の動きから考えれば不自然な気がする。それとも昔の人は、糸を大切にしたので、長持ちさせるために水調子に張ったのだろうか・・・?

というわけでいよいよ、得体のしれないものなりましたが、この会は「妖しい」人々の集まりのようでしたから、許していただけたようです。

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説経祭文は「三庄太夫 宇和竹恨之段」

朗読:姜信子

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今回、特に声援をいただいた森澤和子様、中川絹子様、誠にありがとうございました。その外、皆さんからのおひねりに感謝感謝。

 

 

 

玉川奈々福がたずねる 語り芸パースペクティブ 第一期

4月17日(月)から始まる特別企画。浪曲玉川奈々福さんがかたりもの芸の世界を案内します。

 不肖八太夫は、第3回6月14日、「説経祭文」を担当することになりました。よろしくお願いいたします。同回の「瞽女唄」も聞き逃せません。説経祭文と瞽女唄は、いわば兄妹筋の芸能で、その後の浪曲にも影響を与えているといわれています。

 そ、それよりも第1回の「総論」第2回目の「節談説教」のインパクトがすごいですね・・・こまりましたね。

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馬喰町ART+EAT 「さまよい安寿」原画展 閉幕  

一ヶ月にわたる「さまよい安寿原画展」のエンディングのイベントでは、姜信子の「愛護若」、八太夫の「宇和竹恨」をやらせていただきました。ですが、今回一番気合いが入ったのは、「デロレン祭文」と即興「記憶の森」だったかもしれません。

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神降ろしとデロレン祭文

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節分が過ぎて立春の種を蒔く。

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「水」がテーマの「愛護の若」、姜信子の朗読にエレキ三味線でのBGMをつけてみる。エレキ三味線初挑戦は、素晴らしい音質のエレキアンプに助けられました。

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右壁の屋敷妙子画伯作品「記憶の森」を観て書いて戴いた、皆さんの記憶を集めました。①あの日私は・・・・②あの時あの人は・・・・③その時彼女(彼氏)は・・・・

ランダムに選んでもらった記憶を並べて、やりくり川柳のような詩を作りました。

「あの日、私は、東名高速走行中、突然、ハンドルを取られ、びっくり」

「あの時、あの人は、不安な私の選択に同意し、一緒について来てくれた、これからも一緒に生きて行く」

「その時、彼女は、救助隊に、『重いでしょう、すいません』と何度も言った。着の身着のままの様子で」

結句は、姜信子

『おぎおぎてぃおら えいさらえい

思い出乗せて舟が出る

西に向かえば極楽往生、東に向かえば浄瑠璃浄土

馬喰町から舟が出る

おぎおぎてぃおら えいさらえい』

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説経祭文「三庄太夫宇和竹恨段」バックは日本海。先日、新潟で撮影してきました。今日のあさりうどんも美味でした。ART+EATの皆々様、ありがとうございました。

「さまよい安寿」原画展 2月4日エンディングイベントに向けて

先日、ART+EATにお邪魔してきました。屋敷妙子画伯の大作「記憶の森」がようやく出来上がったのでした。ギャラリー現場での制作です。2011年の新潟日報の紙面を使った、ある種のコラージュではありますが、只、切り抜いて貼ったのではなく、すべての断片に自分の手を入れ、トレースし直しているという労作です。あの日の記憶から、私たちは何を思いだすのでしょうか。

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この「記憶の森」は、宇宙に向けられた巨大なパラボラアンテナのようにも見えますし、水滴の王冠のようにも見え、説経にでてくるウツボ舟にも思えますが、最後には、あの映画「未知との遭遇」に出て来るデビルズタワーに見えてきました。

 この作品の未知なるエネルギーのおかげで、エンディングイベントの打ち合わせでは、次から次へと、科学反応的な連鎖反応が発生し、斬新なイベントが計画されました。2月4日(土)をお楽しみに。

 さて、その上、帰りがけの電車のなかで、ある決意を・・・よしやってみるか・・・

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の結果がこれ。屋敷妙子画伯作品のお気に入りを三味線の面に貼り付けました。(反転させましたが)題して、繭小僧三味線。なおさら妖し感じです。

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エレキ三味線自体は、2月4日に演奏する「愛護の若」用にと、工作中だったものです。破れ三味線の面を剥がして、板を張りました。いわゆる「ゴッタン」にして、マイク付の駒を立てただけです。最近はヤフオクで破れ三味線が二束三文で手に入るので、こうした工夫がしやすくなりました。昔は、びくびくしながらいじったものでしたが。また、ちょっと違う世界へ。2月4日、まだ空席あります。おはやめにART+EATまで、イベント詳細は以下をご覧下さい。

www.art-eat.com

 

 

平成29年 かたりもの八太夫会 お弾き初め

新年恒例のお弾き初め会。参加者は少し減りましたが、その分、みなさんじっくりと取り組みました。又、新弟子2名が披露されました。

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新弟子披露:三味線方 久保嶋奈美「数え唄」

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新弟子披露:太夫方 尤 聖一「源氏烏帽子折 竹馬段」文弥節 f:id:wata8tayu:20170115220632j:plain

 

長唄:鷺娘 三味線 石橋迪子 唄 八太夫

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説経祭文弾き語り 崎村良子 「信徳丸 継母呪い段」

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説経祭文語り 姜八景 「小栗判官一代記 車引段」三味線八太夫

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文弥節 「平家女護島 鬼界ヶ島段」 八太夫弾き語り

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なお、お客さんとして、付き合っていただいた、瓜田さん野口さん。長時間の押し売り説経に良く耐えました。ご苦労様でした。その功徳によって、きっと良い年になると思います。本年もよろしくお願いいたします。

  

 

新春「さまよい安寿」オープニングイベント

屋敷妙子「さまよい安寿」原画展のオープニングイベント第一夜「なにかが道をやってくる」 於馬喰町ART+EAT 新春早々のご来場、誠にありがとうございました。楽しんでいただけましたでしょうか。思った通り、とんでもない舞台になりました。

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まずは、新春を言祝ぐちんどん屋が出動(クラリネット:今村純子)

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次に絵双紙の読売が出ました。(読売:山口愛

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第一部は浪読「八百比丘尼の話」玉川奈々福・堀川久子・渡部八太夫この黒い三人組を見た方が、「八咫烏組?」とつぶやいたとか・・・説経三味線での「浪読」に初挑戦する玉川奈々福と、浪曲師に初めて三味線をつける八太夫との探り合いと、その狭間で踊る堀川久子。正月早々、こんなぞっとするような出し物でよかったんでしょうか。

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中入りの「占い」が繁盛・・・しすぎて、第二部がなかなか始まりません。              f:id:wata8tayu:20170108143510j:plain

屋敷妙子画伯と、謎の占い師。尚、会場では、原画即売を行っております。原画展は2月4日のエンディングイベントまで開催しておりますが、販売は早い者勝ちですので、お早めにご来場下さい。詳しくは、ART+EAT(03-6413-8049)まで

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説経祭文「三庄太夫 骨拾之段」 安寿の霊が現われる場面。写真ではよく分かりませんが、例の弓を使う奏法の場面です。堀川氏に十分踊っていただこうと、いつもの倍もやったでしょうか。撥を持ったり、弓を持ったり、その後は、竹棒で叩いたりと大忙しの曲です。

第二夜「哀しみは嵐になる歌になる」は、2月4日(土)午後3時開演。昼の部ですので、どうぞお出かけ下さい。

次回の演目は、姜信子の語り「こよなく愛する~愛護の若~」八太夫の説経祭文「三庄太夫 宇和竹恨之段」そして目玉は、屋敷妙子画伯と姜信子の対談です。乞うご期待。

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「平成山椒太夫」も好評発売中。

明治大学 声の氾濫 鉄犬ヘテロトピア

理工学研究科新領域創造専攻・・・いったい、今の大学というのは何を教えているのかよく分からない。とりあえず、現代文学の最前線で「声」の意味を問うのだと言うから、姜信子の著書「声」(ぷねうま社)が取り上げられるのは理に叶っているようだ。そして、「鉄犬ヘテロトピア文学賞」という大変にマイナーで名誉ある文学賞を彼女が受賞した。

 姜信子という作家と行動を共にしていると、いきおい「文学」の領域に連れ出されるのだが、私には「文学」自体もよく分かっていない。分かったふりをしても仕方無いので、大概は、どうも良く分かりませんと、尻を巻くっているのだが、今回の人々(作家や学者や音楽家)を観察していて、こんなことを思い出していた。

 大昔、学生の頃、スキーコーチをしながら、とあるユースホステルで冬を過ごすのがお決まりだったが、大晦日の夜にコーチ仲間が集まって「紅白をぶっ飛ばせ」という出し物をするのだ。宿泊客を巻き込んで、歌や寸劇、コントやゲームをして遊ぶだけのことだが、これが結構大受けだった。「大晦日は紅白」という既成概念をぶっ壊す快感があった。これは、ひょっとしたら私の芸能活動の原点かもしれない・・・

 まあ、同じ事ではないだろうが、どうも、何かの既成をぶっ壊して、新しい価値を自ら見出す。お仕着せ、あたりまえ、常識、権威、金といったもの達には従わないという点では、なにか自分と似た様な感じを受けた。

 さて、「声」と言えば、私の活動領域そのものでもあるので、少しその「文学」の最前線を賑わすことになった。はたして氾濫なのか、反乱なのか・・・

姜信子作「声」より谺雄二氏の話「母を想えば」・・・祭文松坂の葛の葉と、谺氏の詩をミックスした朗読文の一部を、瞽女唄調子で今様祭文に仕立ててある。既に何回か披露してきたが、この唄は、やってる方がいつも涙ぐんでしまう。

 もう一編は、新作「こよなく愛する」・・・説経「愛護若」を取り上げ、今回のイベントの為に姜信子が書き下ろした。ここでは、私は「語り部」として居るが、自らが語るわけではない。姜の朗読に合わせて「水」の音を奏でつづける事が新しい取り組みなのだが、唄でなく、朗読に合わせるというのもなかなか難しい。

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朗読「こよなく愛する」・・・「愛護若」水の話・・・

背景の映像は、実際に山に行って沢や滝を撮影してきたもの・・・実は若狭、遠敷の鵜の瀬。東大寺の「お水取り」のありがたい「お水」も映っていました。

この水が、次の新しい「水」の物語に繋がって行く。新春公演の「八百比丘尼」が楽しみです。

 

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討論会の様子:左から 中村和恵 姜信子 木村友祐 温又柔 管啓次郎 各氏

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「鉄犬ヘテロトピア文学賞」第3回授賞式。同時受賞の石田千氏と。おめでとうございました。

 

木村さんよりの舞台写真追加します。

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