稽古場:ゆやんたん文庫 奈良市敷島町
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奥浄瑠璃の世界

仙台宮城を中心として、特異な浄瑠璃が存在した。奥浄瑠璃もしくは御国浄瑠璃というう。記録によれば、説経ネタ、古浄瑠璃系のネタと多岐に渡っているけれど、特に驚かされるのは、「田村三代記」という独自の演目である。

その物語のあらすじは、鈴木幸龍口授本によると、以下のようなものである

 

田村初代、二条中将利春は天から降った星の中から生まれる。勅命に背いて流された越前の繁井が池で大蛇と交わり、大蛇の腹に3年3月孕まれた大蛇丸誕生、長じて二条中納言利光(二代田村)となる。この二条の君が夷を討つために奥州にやってきて、九門屋長者の水仕の悪玉と契る。この悪玉とは、もとは京の三条大臣の姫君で、長野善光寺に詣でた折に盗賊に襲われて、売り飛ばされてきたのである。姫君は十一面観音に祈り、みずからを醜い姿に変えてもらう。その醜さゆえに悪玉と呼ばれることになった。その悪玉が二代田村には絶世の美女に見えた。悪玉は子を孕み、二代田村は形見の鏑矢を置いて京に戻る。悪玉の腹に3年3月孕まれて生まれたのが三代田村、千熊丸。千熊丸は九門屋長者の子として育てられるが、ある日、自分が悪玉の子であることを知る。そして形見の鏑矢を携えて、父を訪ねて京にゆき、子と認められるまでの過酷な試練をくぐり抜け、ついには帝から坂上田村麻呂(三代田村)の名を賜る。田村麻呂は母を京に迎え、悪玉去ったあとの陸奥の村には、十一面観音を子安観音として祀る祠、悪玉を染殿大明神として祀る祠が作られた。

 

驚くというのは、「説経をくり」の物語を随所で活用(?)しながら、独自の世界を創り上げていることである。例えば、二代目田村が大蛇と交わるというのは、をくりの「深泥池龍女」であろうし、後に「悪玉」と呼ばれる絶世の美女「笹鶴姫」は、照手の様に、売られ買われて「萬屋」ならぬ「九門屋」に買い止められる。そして、主人公である後の田村麻呂「千熊」は、いまだ見ぬ父と対面した時に、「鬼鹿毛」と「矢取」の試練を課せられる。とまあ、こんな案配。どんな山伏達がこの物語を作っていったのかと、にやにやとせざるを得ません。

そうして、なによりも大事なのは、この物語は、本地語りであるから、正しくは浄瑠璃ではなく、「奥説経」と呼ぶべきであるということである。

 

さて、奥条瑠璃の出合った時に、田村三代記の音源を宮城県立図書館に聞きに行った。しかし、残念ながら、私の実力ではとても再現はできなかった。したがって、音曲的には奥条瑠璃を再現したものではない。八太夫的に田村三代記、特に「悪玉」に惚れて、これを語ることにしたので、節はオリジナルである。

 

そして、最後に、お詫びです。

丁度一年前の2021年9月に発表した「田村三代記」は、当初「奥浄瑠璃」としていたが、その後の調査の結果、使用したテキスト

「田村三代記」明治21年5月8日出版 松本幸三郎 刊 佐勘書店 

は、奥条瑠璃ではなく、読み本の類であることがわかったので、これを訂正いたします。

そして、今回は、

御国浄瑠璃(奥浄瑠璃)田村三代記 昭和八年 鈴木幸龍 口授    

昭和15年10月15日 小倉博編    

天台宗無夷山箟峯寺(こんぽうじ)(宮城県遠田郡涌谷町)領布

を用いて、新たに節付け致した次第です。

 

「琵琶に磨碓」は、菅江真澄の遊覧記の中に出てくる話です。ここで始めて「悪玉姫」という変な姫の名前を目にして、奥浄瑠璃田村三代記なるものの存在を知ることになったのでした。

そのきっかけのお話からどうぞ

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田村三代記より悪玉御前口説

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