稽古場:ゆやんたん文庫 奈良市敷島町
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今様祭文 件(くだん)

8月の末に磐梯山に登拝したのは、猿八座福島公演のついでの思い立ちに過ぎなかったし、9月に入って出羽三山に峯入りしたのも、みんなの都合でそうなったのに過ぎない。9月9日明日、重陽節句に「件」を演ずることとはなんの関係もなかったはずである。なのに、この2週間に起こった様々の事は、「件」をリメイクして演じさせるために、件が企んだのかもしれないと、密かに思っている。

だいたい磐梯山で、かつて修験が大変に盛んであったということは、山麓の恵日寺に行って初めて気が付いたようなものだ。磐梯山は、磐(いわ)と天を結ぶ梯子の山であり、「いわはし」明神の山であるということも知らなかった。亡くなった人の霊は、羽山から磐梯山を昇り、やがてその山頂から天への梯子を昇って行くのだ。

「そうか、つまり、磐梯山に登ると言う事は、あの世へ行く事なのか。」と思いながら登山口へ車で上がっていった。その時、道端に突然、転がり落ちてきたものは・・・

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ええっ!何にみえるだろうか?実は熊である。しかし、どう見ても件に見える。いや件にしか私には見えない。とすると、あれは、件になった私か。もう、ここはあの世なのか・・・件が、天へ昇る「いわはしご」へと導く

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屋敷妙子絵:件

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磐梯山山頂の磐梯(いわはし)明神

内田百閒の「件」、さらっと読めばさらっと終わるが、読めば読むほど、分からなくなって行く。なにをどう演じたらいいのか。説経や浄瑠璃とは創る世界がまったく違う・・・むううう。姜信子の監修・演出が入ってさらに苦しむ。「件」は、生きているんだか、死んでいるんだか分からない。

そんな時に、思い当たったのがチベット経典の「バルドゥ・トドル」だった。「バルドゥ」とは「中有」と訳されている。まさにこの世と、あの世の間の話しである。

「ああ、私は『件』を演ずるために、バルドゥの道を歩く事になっているのだな」と思った。それは、出羽三山まで続いていたのである。月山もあの世の山である。私は月山で「件」が生まれ出た、月の輝く原野を見た。

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月山にて

月山の山頂小屋に一泊。夜半晴れ上がった夜空に、満月少し前の明るい月。照らし出されて、銀色に光る草原の真ん中に、只一人立ってみた。「件が見た景色はこれか・・・」

さて、リメイク「件」は、明日どんな顔をして現われるのだろうか・・・